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広島地方裁判所 昭和61年(行ウ)1号 判決 1994年8月09日

原告

境港倉庫株式会社

右代表者代表取締役

松本豊

右訴訟代理人支配人

面谷敬

右訴訟代理人弁護士

川中修一

被告

運輸省中国運輸局長

奥西勝

右指定代理人

稻葉一人

外五名

主文

一  被告が原告に対し昭和六〇年七月二九日付けでなした「いかだ運送事業」の免許申請を却下した処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、水面貯木場における水面倉庫業(寄託原木の荷捌き、保管及び出庫)を営む株式会社である。

被告は、運輸大臣の監督の下にある運輸省中国運輸局(以下「中国運輸局」という。前身は運輸省中国海運局(以下「中国海運局」という。)であったが、昭和五九年七月一日の組織変更で、運輸省中国陸運局と統合して中国運輸局となった。)の局長であって、港湾運送事業法(以下、単に「法」というときは同法を指す。)三〇条一項、同法施行令四条一項一号に基づき、運輸大臣の委任を受けて、港湾運送事業の適正確保のため、右事業に関する免許権限を有している。

2  行政処分

(一) 原告は、被告に対し、昭和五九年八月一三日、次の内容の港湾運送事業の免許の申請(以下「本件申請」という。)をなした。

(1) 事業所の名称・位置等

鳥取県境港市外江町三七五四番地三

境港倉庫株式会社(原告)

(2) 港湾運送事業の種類

いかだ運送事業

(3) 港湾名 境港

(4) 限定する業務の範囲 原告の水面倉庫に寄託する原木に限る。

(5) 事業に使用される労働者の数及び施設

労働者の数 一四名

引船 四隻(うち一隻計画中)

通船 一隻(計画中)

水面貯木場 一万平方メートル(所有)

(6) 処理し得る貨物の年間の取扱数量 九万六〇〇〇立方メートル

すなわち、原告は、原告の水面貯木場に保管する原木に限り、原木を積載した船舶から卸下された原木の「いかだに組んでする木材の運送及び水面貯木場への搬入」(以下「本件作業」という。)を自ら行うことについての免許を求めたものである。

(二) 被告は、昭和六〇年七月二九日付けで、本件申請を却下する処分(以下「本件処分」という。)をなした。

3  原告は、昭和六〇年九月七日、運輸大臣に対して、本件処分に対する不服審査請求をし、同年一二月七日が経過した。

4  本件処分は違法であるから、原告は、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の各事実は全て認める。

三  抗弁(本件処分の適法性)

1  本件処分の理由

本件申請にかかる事業計画は、以下のとおり、法六条一項一号(需要と供給の均衡の維持)、同項三号(事業計画の適正)及び同項五号(経理的基礎の確実性)に適合していない。

2  免許制度の特質

港湾運送事業の免許は、公企業の特許であり、法六条一項各号所定の各基準は、文言自体、一般的抽象的な不確定概念をもって定められたものであるところ、その基準の審査に当たっては、当該事業者の経営内容、需給の動向、一般的な経済情勢や現在及び将来の影響をも含めた諸般の事情を総合考慮しなければならず、その判断は専門的、技術的内容にわたらざるを得ないから、運輸当局の広汎な裁量に委ねられているものと解すべきである。

そこで、運輸当局においては、免許行政の目標を定め、多数の申請に対する処理の公正を確保するため、昭和三四年一二月二二日付港政第二〇三号の依命通達「港湾運送事業法における免許基準の運用について」(以下「本件通達」という。)をもって、免許運用基準を定め、それに従った処理をしてきているが、本件においても、本件通達の趣旨が十分に尊重されなければならない。

3  法六条一項一号の基準について

(一) 同号の趣旨及び本件通達による運用

同号は、港湾運送需要量に比較して港湾運送供給量が著しく過剰になるときは、過当競争を誘発して港湾運送事業経営の全般的悪化、ひいては衰退を招くことが懸念されるので、これを防止しようとするものである。

そこで、本件通達においては、港湾運送事業者の乱立状態に鑑み、当該港湾において港湾運送供給量が不足している場合及び新しく需要者が増加する場合を除き、新規事業者に対する免許は行わない旨定めている。右通達の趣旨に照らすと、被告は、港湾運送の供給不足が著しく顕著にならない限りは新規に免許をしてはならないというべきである。

(二) そこで、境港における「いかだ運送事業」の需給の関係について考察する。

(1) 需要量

境港における昭和五〇年から同六〇年までの輸入原木量は、同五四年をピークとして以後減少傾向にあり、近年は六〇万立方メートル前後で推移している。我が国における木造住宅着工戸数の減少や原木輸出国の輸出規制等の経済情勢からみて、輸入原木量の増加は期待できない。全国的にも「いかだ運送事業」は不振であり、政府は、昭和五七年一〇月からこれに対して「中小企業事業転換対策臨時措置法」に基づく業種指定を行うなど、諸政策を実施している。

(2) 供給量

境港における原木の「いかだ運送事業」は、本件処分時から現在まで、境港海陸株式会社(以下「境港海陸」という。)一社がこれを行っている。

境港海陸は、原木積載船舶からの原木の卸下作業(以下「船内荷役」という。)及び卸下された原木をいかだに組む運送作業(すなわち本件作業)の各々について、常時、入港船舶三隻分に対応できる体制をとっている。

同社の昭和五八年におけるいかだ運送作業実績は四九万六〇〇〇立方メートルで、これを延べ荷役日数三七六隻日で除すると、一日一隻当たり一三一九立方メートルとなるから、これに年間稼働可能日数の二五七日(一年の日数から本件処分当時の法定の休日及び就業規則所定の有給休暇の日数等を差し引いた日数)、及び常時荷役可能隻数の三隻を乗じると、同社の年間の供給能力は一〇〇万立方メートルを下らないものである。

(3) 需給の関係

右(1)、(2)を総合すると、境港海陸の供給能力は、需要量に比較してなお相当の余力がある。

(三) 他方、原告の事業計画によれば、原告は年間九万六〇〇〇立方メートルの供給能力を持つという。

そうすると、需要量の新たな増加も、境港海陸の供給能力だけでの供給不足も認められないから、原告が新規に「いかだ運送事業」に参入すると、供給過剰による過当競争を招来するおそれがあり、同号の基準に適合しない。

4  法六条一項三号の基準について

(一) 同号の趣旨及び運用

同号は港湾運送事業の円滑な遂行を確保するため、事業者に対して、免許申請にかかる事業計画の適正さを要求するものである。被告は、事業者の事業計画について、取扱予定数量に対応した設備や人員があるかどうか等、さまざまな角度からこれを検討し、その適正さに問題があるならば、免許をしてはならない。

(二) 原告の事業計画上の問題点

原告の本件申請にかかる事業計画によれば、原木の船舶からの取卸し作業(以下「船内荷役」という。)は境港海陸に委ね、本件作業以降を原告がなすことになっている。本件作業は客船・漁船の航路となっている狭い水路でなされること、作業の安全性、荷役の迅速性、沈木材や潮流による流木の処理等の見地から、船内荷役と本件作業とは、両作業者同士で緊密な調整を行って連続した作業体制の下でなされなければならない。

しかし、原告と境港海陸とは、水面貯木場での原木の寄託等の業務における競合関係に端を発して対立関係にあり、原告は境港海陸に不信感を持っているから、両者間で緊密な協議がなされることは期待できない。そして、それでは事業の円滑な遂行は確保されない。

(三) そうすると、原告の事業計画は適正を欠くものといえ、同号の基準に適合しない。

5  法六条一項五号の基準について

(一) 同号の趣旨及び本件通達による運用

同号は、港湾運送事業の公益性に鑑み、免許されるべき業者に、事業の発達のためにこれを継続し得るように、その経理的基礎の確実性を要求したものである。

そこで、本件通達においては、当該事業の事業計画を維持しつつ、永続的経営が可能であるかどうかについて、収支見積、資金計画等の適否及び確実性を審査した上で、免許をなすべき旨定めている。

(二) 原告の問題点

原告の経営する倉庫業の営業収支は慢性的赤字であり、昭和五八年度の決算においては、一三七六万七一七七円の累積赤字を計上し、更に減価償却不足額の累積額四五九九万三八三四円を加えると、資本金三〇〇〇万円に対して実質的に債務超過となっている。

(三) このような財政状態にある原告が、申請にかかる事業計画を永続的に遂行するということは期待し難いから、同号の基準に適合しない。

6  被告は、本件申請を受けて、昭和六〇年二月一三日、同月一八日及び同年三月四日に、法施行規則二三条に基づく聴聞を実施した後、慎重審査の結果、本件申請は前記1のとおり免許基準に適合しないと認定して、同年七月二九日、本件処分をなし、その旨境海運支局長から原告に書面で通知したものである。

四  抗弁に対する認否及び原告の反論

1  抗弁1の処分の理由は認めるが、その当否は争う。

2  抗弁2の主張は争う。

法六条の体裁からみて、行政当局の裁量は覊束裁量である。また、本件通達は昭和三四年当時のものであり、当時に比べて現在では経済基盤は格段に整備され、業者の乱立状態はもはや存在しないにもかかわらず、依然として本件通達に基づく基準を適用するのは相当でない。

3(一)  抗弁3(一)のうち、法六条一項一号の趣旨自体は認めるが、その余の主張は争う。供給不足が顕著である場合に限り同号に適合する、との被告の解釈は条文の規定に違背する。本件通達が今日妥当性を失っていることについては、抗弁2に対する原告の主張のところで述べたのと同じである。

(二)(1)  抗弁3(二)(1)のうち、全国的には輸入原木量が減少傾向にあるため「いかだ運送事業」が不振であること、境港での輸入原木量が近年年間六〇万立方メートル前後で推移していることは認めるが、同港でも輸入原木量が減少傾向であることは否認する。その量は横這いで推移しているとみるべきである。

(2) 同(2)のうち、本件処分時から現在まで、境港において「いかだ運送事業」を行っているのが境港海陸だけであることは認めるが、その余は否認する。被告のいう運送実績というのは、船側から貯木場までの限定したものであるが、いかだ運送は、貯木場入れ(入庫)に引き続いて選別、仕訳、検量、検疫、消毒作業、けい留、保管、回漕等の場内作業が必要であり、その手間は船側から貯木場までの二倍以上を要するといわれているのに、被告の主張にはこの点がまったく欠落している。また、境港海陸の作業実績は、法定労働時間の八時間以内で作業した日は全体の三三パーセントであり、他の六六パーセントは時間外労働をして荷役をこなしているのであり、このことは境港海陸の作業人員が不足していることを示している。これらのことを勘案すると、境港海陸に常時三隻の荷役を行える体制があるというのは甚だ疑問であり、せいぜい入港船舶二隻分に対応できるに過ぎない。

(3) 同(3)は争う。

(三)  抗弁3(三)のうち、原告の事業計画上の供給能力が年間九万六〇〇〇立方メートルであることは認めるが、その余は否認する。

4(一)  抗弁4(一)は認める。

(二)  同(二)のうち、原告の申請した事業計画の内容が、船内荷役は境港海陸に委ね、本件作業以降を原告がなすというものであること、両作業が緊密な調整による連続的な作業体制の下になされなければならないことは認めるが、その余は否認する。法一五条は、港湾運送事業者に、特定の利用者に対して貨物の多寡その他の理由により不当な差別をなすことを禁じている上、原告の作業員や境港海陸の作業員は全て地元の者であっていがみあうようなことはないから、事業に競合部分があるからといって事業の円滑な遂行が確保されないとは言えない。

(三)  同(三)は争う。

5(一)  抗弁5(一)は認める。

(二)  同(二)は認める。しかし、原告の経営する倉庫業が赤字なのは、被告が、境港海陸の、独占事業たる「いかだ運送事業」等では高料金を設定しつつ、原告と競合する水面貯木場での荷役や原木保管等の事業において不相応に低料金に抑えるという、不公正な料金設定を放置したからである。また、原告は、右料金設定にもかかわらず昭和五四年以来一〇年以上経営を継続している。

(三)  同(三)の主張は争う。原告は、「いかだ運送事業」について免許されれば、集荷は全て原告の株主の貨物であるから顧客は安定しているし、同事業での境港海陸の独占状態が解消されて、右(二)の不公正な料金設定のために原告の収入が伸び悩むこともなくなるから、右(二)の赤字を短期間で解消することができる。また、原告には担保に供し得る土地(遊休地及び水面で、含み資産は合計一〇億円を下らない。)もあるので、金融機関からの融資は順調である。

原告の赤字の原因、本件作業の事業の展望及び右含み資産を総合すれば、原告の経理的基礎が確実でないとはいえない。

6  抗弁6のうち、聴聞が数回あったこと及び原告に書面で本件処分の通知があったことは認めるが、審査手続の公正さは争う。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1ないし3の各事実については当事者間に争いがない。

二  原告が、本件申請をなすに至った経緯についてみるに、成立に争いのない甲第二八、第三三号証、証人面谷敬の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第五号証、証人間弓康治並びに同石黒節夫の各証言によれば、次の事実が認められる。

1  原告が設立されたのは昭和四二年であるが、境港においては、日本経済の活性化に伴い、外国からの木材等が多量に入ってくるようになっており、昭和三〇年代前半では一万数千立方メートルであった木材の輸入量が、昭和四〇年代になると二〇万ないし四〇万立方メートルと急速に増加していった。

当時、境港においては港湾運送事業法に基づく一般港湾運送事業及びいかだ運送事業を営む会社は境港海陸一社であったから、境港の木材業者の間では、急速に増加する木材の輸入に伴う一連の作業に対し、供給が追いつかない状態であり、また利用者の利益擁護の立場からも好ましくないとの考えがあった。

したがって、原告は、主として地元の木材会社の出資により設立された株式会社であり、差し当たっては倉庫業を目的とした設立されたものではあるが(昭和四三年一二月一六日に運輸大臣から倉庫業営業の許可を受けて倉庫業の営業を開始した。)、いずれ将来は港湾運送事業に参入することをも視野に入れていた。

このような経緯から、原告は、設立当初から、直接或いは政治家等を介し、中国海運局(当時)に対して内々で港湾運送事業をしたい旨の申し入れないし陳情等をしていたが、中国海運局からの捗々しい感触が得られなかったため、正式には申請をするに至らずに経過していた。

2  境港海陸は、一般港湾運送事業及びいかだ運送事業を営む会社として、木材を積載してきた船舶からの木材の海中への卸下、水面に卸下された木材の「いかだに組んでする運送」及び水面貯木場への搬入(これらの作業を「本船作業」という。)並びに水面貯木場における寄託木材の荷捌き、保管及び出庫(これらの作業を「場内作業」という。)を行っており、原告は、倉庫業者として場内作業を行っていた。したがって、境港においては、本船作業については境港海陸の独占事業であるが、場内作業については、原告と境港海陸が競合状態にあった。

3  ところで、原告は、昭和五六年ころから、境港海陸が独占部門である本船作業の価格については高率に値上げをするのに、原告と競合関係にある場内作業の価格は低く抑えるので、原告においても必然的に境港海陸の設定する価格に追随せざるを得ず、また中国海運局や中国運輸局も同一料金とするよう指導したので結局低い料金を設定することとなり、このため業績が悪化してきたとして、境港海陸のやり方に不満を抱くようになっていった。また、原告は、境港海陸が原告の水面貯木場に曳航するいかだについては、境港海陸のそれに比べて、長尺、短尺の木材を混ぜて組み、組み方が粗雑であるとの不満を持っていた。

これらのことから、原告は昭和五九年八月一三日、中国運輸局に対し、前記のような境港海陸の料金設定を是正させるように指導してほしいとの申し入れを行ったが、中国運輸局が何らの措置をも採らなかったので、原告は倉庫荷役として水面に卸下された木材の「いかだに組んでする運送」及び水面貯木場への搬入の作業ができるとの判断から、これらの作業を自らしたい旨中国運輸局に申し入れをした。ところが、中国運輸局は、倉庫業の免許ではそれはできないと通告したため、原告としても切羽詰まって、このうえは免許を申請をする外ないと判断し、本件申請に至ったものである。

4  ただ、当時、右のような動きは全国的にみれば稀なものであり、被告管轄の中国管内においては、十数年来、全く新規にいかだ運送免許を申請した者は原告以外にはなかった。

三  以下、本件処分の適法性について判断する。

1(一)  被告は、本件申請に対して免許をすると、事業の開始により港湾運送供給量が港湾運送需要量に対し著しく過剰になるから、法六条一項一号に適合しないと主張するので、この点について判断する。

(二)  成立に争いのない甲第一四、第三六、第三八号証、乙第三、第一二、第一三号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第三〇号証、証人間弓康治(後記の信用できない部分を除く。)、同面谷敬及び同石黒節夫の各証言、右面谷敬の証言により成立の認められる甲第一八、第三七、第三九号証、調査嘱託の結果である平成三年七月三〇日付け被告意見書、平成五年三月五日付け米子労働基準監督署長に対する調査嘱託の結果並びに争いのない事実を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1) 原告は、前記のとおり、昭和四二年に境港の材木業者の出資により設立された株式会社で、地面を掘削して八幡堀という名称の水面貯木場(水面倉庫)を作り、そこで輸入にかかる寄託原木の荷捌き、保管及び出庫を営む業務を行っている。

(2) 原告のなした本件申請の内容は、原告の水面倉庫に保管する原木(見込みでは年間約九万六〇〇〇立方メートル、トン換算では約8.4万トン)に限定していかだ運送事業の免許を求めるものであった。

(3) 被告において港湾運送事業の免許申請に関する事務を取り扱っていたのは中国運輸局運航部港運倉庫課港運係であった。当時港運係長であった間弓康治は、『港湾運送事業者の乱立状態に鑑み、当該港湾において港湾運送供給量が不足している場合及び新しく需要量の増加する場合を除き、新規事業者に対する免許は行わない。』という本件通達に基づき、そこに示されている厳格な指針に則って免許審査をするべく調査に携わった。

(4) 境港においては、原木輸入量は、昭和五四年には七〇万トン余であったが、同五五年には約六四万トン、同五六年には四八万トン余、同五七年には六二万トン余、同五八年には五二万トン余、同五九年には五七万トン余と推移したので、被告は、いわゆるオイルショック以降全国的に木材需要が冷え込んでいることや、付近の浜田港等が整備されるにつれて、それらの港でも原木が荷役されることが予想されたことから、長期的には境港における原木輸入量は逓減していくであろうと判断した。

(5) 被告は、本件申請にかかる免許がなされれば、原告が境港での輸入原木のうち約一五パーセントの量を扱っているので、将来的にもほぼその割合の輸入原木について本件作業をするであろうと考えた。

一方、前記認定のとおり、境港においては、境港海陸のみが港湾運送事業免許を受けて、同事業の一種であるいかだ運送事業を行っているが、同社は、その他に、ウッドチップ、鉄鋼等の港湾運送にも従事している。

(6)イ そこで、被告は、輸入原木量の推移についての前記(4)の見通しを前提に、境港においては新たな需要が見込まれるわけではないので、本件通達に従った免許審査をするについては、もっぱら境港海陸のいかだ運送事業の能力が現在及び将来見込まれる輸入原木量に対応できるものかどうかの観点から検討することとした。

ロ 被告は、職員間弓康治らにおいて境港海陸から被告に届け出られた数値を調査したり、現地調査をしたりして、境港海陸のいかだ運送事業部門の人員が四二名であると把握し、また、その人員とは別に、船内荷役に引き続かないいかだ運送のため、境港海陸の水面貯木場に常時二五名の人員がいて、境港海陸の水面貯木場で場内作業に従事しているので、前記四二名は常時本件作業に専念できるものと理解した。

そこで、被告は、一隻から取り降ろされた原木の荷役に対応するには一三名の人員が必要であるところ、人員が四二名いるということは、境港海陸が事業計画上、常時、入港船舶三隻から取り降ろされる原木の荷役に対応できる体制(以下、この体制を「三隻体制」という。)を有すると判断した。

ハ 被告は、境港海陸が事業計画上常時三隻体制を有するので、右体制で一年のうち日曜祝日及び法定有給休暇日数を差し引いた二五七日稼働するものとし、昭和五八年度には延べ三七六隻日(原木を取り降ろす船舶毎に当該船舶一隻の荷役にかかった日数を乗じたものの総和)の荷役日数で四九万六〇〇〇立方メートル(トン換算で約四三万八〇〇〇トン)のいかだ運送実績があるので、一日一隻当たりでは一三一九立方メートル(トン換算で約一一六四トン)の能力を有すると考えたので、二五七日総て三隻ずつ原木を取り降ろす船舶が入港したとすると、境港海陸はそれら総てに対応することができるのであるから、一年では一〇〇万立方メートル(トン換算で約九〇万トン)以上のいかだ運送が可能であると算定した。

(7) そして、被告は、境港海陸の右能力は現在及び将来の輸入原木量に十分対応して余りあるものと言えるので、原告の本件申請に対して免許を与えれば、その「事業の開始により港湾運送供給量が港湾運送需要量に対し著しく過剰に」なり、本件申請は法六条一項一号の基準に適合しないと結論を導いた。

(8) しかし、以上の被告の認識には、次のような問題点があった。

イ 実際の原木取扱量については、浜田港でのそれは増大したものの、境港においても、昭和六〇年以降、それほど減少せず、おおむね五〇万トン前後で推移している。

なお、甲第二七号証の一ないし九では、原木輸入量について前記(4)の数値よりもやや大きい値が出ているが、それは神戸植物防疫所の検疫実績に基づくものであるところ、右数値は原木輸出国側の荷主の記載する船荷証券上の数値に基づくものであり、また、境港での検査後浜田港等に運び出される(従って境港でのいかだ運送事業の対象となり得ない)原木量も含まれている可能性があるから、いかだ運送事業の需給のバランスを考えるに当たっては、この数値によることはできない。

ロ 境港海陸の作業人員については、証人間弓康治は、前記(6)ロの被告の認識が正しいものである旨の証言をする。確かに境港海陸は船内荷役に引き続かないいかだ運送事業の免許を有しているが、一般に同種の荷役に従事する人員は兼用できるものであり、また、右単独免許は水面貯木場からの搬出用のものに過ぎないこと、そして、被告は、実際の境港海陸の作業において、人員がどのように配置されているのかの点を調査しているわけではなく、境港海陸のいかだ運送事業に従事する人員は全体で五一名に過ぎない(これは平成三年の調査に基づくものであるが、三隻体制が維持されている以上本件申請当時とさほど差はない筈である。)としていること(平成三年七月三〇日付け被告意見書、証人石黒節夫の証言)からすると、前記四二名とは別に同社の水面貯木場に二五名の人員を有しているとは考えられないから、右間弓証人の前記証言部分は信用できない。

被告は、境港海陸の自社水面貯木場において木材を保管する場合には、前記四二名の人員が本件作業後いかだ組みを解いて仕訳し保管する作業をしなければならないのに、本件作業とは別に場内作業に従事する人員がいると誤解したため、前記四二名の人員が二五七日の全てを本件作業のみに従事することができると判断したが、これは誤りである。

ハ 境港海陸の作業体制については、被告は、実際の境港海陸の作業において、人員がどのように配置されているのかとか、配置された人員を他の作業に融通することはないのか等の点の調査をしたことはなく、港湾運送事業に従事する者として米子労働基準監督署に対して届け出られた数値と被告に対してなされた報告とではかなり差があり、その正確な数値を把握していない(甲第三八号証、証人石黒節夫の証言、平成五年三月五日付け米子労働基準監督署長に対する調査嘱託の結果)ことからすると、被告の述べる数値はいわば机上の数値に過ぎないものとみられるところ、現実には、境港海陸は、前記の作業実績を挙げるについてはかなりの日数(実作業日数中三分の二程度)に時間外労働をすることでようやくこなしている実情にあり、本件申請に伴う聴聞手続においても、木材業者からは境港海陸の本件作業が迅速でない旨の苦情が多かったこと、現実には二隻の入港に対しても多大な日数を要していることは前記認定のとおりであるから、これらの事実からみると、境港海陸において三隻体制をとっていると認めることは困難である。

なお、前掲乙第一三号証中には、境港海陸は木材だけでなく全作業量に対して三隻体制を有している旨の供述がある。これは、右の事実を勘案すれば、境港海陸の三隻体制の実態としては、一応本件作業だけで作業量を考えれば三隻体制になるが、他の作業があればそちらに人員を融通するため、一応作業できる人員が残るだけの状態もあるという趣旨のものと解されるから、右供述も前記認定を左右するものではない。

ニ 以上のとおり、被告が行った境港海陸の作業能力の算定方法には、作業実態を正確に把握しないまま、誤った認識に基づいて単純に計算をしたという問題点があったため、実情とかけはなれた数値が算出されたものである。

なお、証人間弓康治及び同石黒節夫の各証言並びに前掲乙第一三号証の中には、境港海陸は余剰労働者が多くて困っているとの供述があるが、前記認定事実に照らし信用できない。また、県営貯木場の開設や木材荷役用ドルフィンの供用開始により余剰労働が生まれる旨の供述があるが、それらにより事態がどのように改善したかについては何ら具体的な証拠がないから、前記認定を左右するに足りない。

(三) 前記認定の事実に照らせば、被告は、境港海陸の適正な作業能力を算定したと言えない。むしろ、右作業能力は必ずしも現在の輸入原木量に対応しておらず、境港の実際のいかだ運送においては供給不足が窺われるということができる。加えて、原告の行おうとした本件作業は輸入原木量の約一五パーセントに過ぎないから、原告に新規に免許がなされても、境港海陸との共存共栄は十分可能であると推測され、原告の「事業の開始により港湾運送供給量が港湾運送需要量に対し著しく過剰に」なる場合に該当するとは認められない。

(四) なお、被告は、法六条一項一号の解釈につき、本件通達に依拠して、同号は港湾運送の供給不足が著しく顕著にならない限り新規に免許をしてはならない趣旨であると主張する。確かに、港湾運送事業免許を新規に認めた場合には、一般に、港湾運送供給量が大幅に増加するものとみられ、その供給量が需要をやや下回る程度の状況において新規に免許するときは、既存の業者の供給量と新規の業者のそれとを併せた供給量の総体が当該港湾における港湾運送需要量に比して著しく過剰になることが予想されるから、港湾運送の供給不足が著しく顕著にならない限り新規に免許をしないとの本件通達及び運用が常に不合理とは言い難い。しかし、前記認定のとおり、境港における港湾運送供給量には不足が窺われ、他方、原告に対して免許をした場合の港湾運送供給量の増加は約一五パーセントに過ぎず、大幅な供給量の増加をもたらすものではないから、このような場合をも法六条一項一号に適合しないとする被告の主張は到底採用することができない。

よって、被告の同号に関する主張は失当である。

2  次に、被告は、本件申請は、「当該事業の遂行上適切な計画を有」しないから、これに対して免許をする法六条一項三号に適合しないと主張するので、この点について判断する。

被告は、原告が右基準に適合しない根拠として、原木の取卸し作業(船内作業)をする境港海陸とこれに引き続く本件作業をする原告とは緊密な協議が不可欠であるところ、両者は対立関係にあり、原告は境港海陸に不信感を持っているので両者間での緊密な協議が期待できないから、同号に適合しないと述べるのである。

しかしながら、単に両者の間に競業関係部門があるというだけで両者が対立関係にあると即断することは適当でない。のみならず、被告は、その間にどのような協議ができることをもって、「当該事業の遂行上適切な計画を有する」と判断するのかが明らかでない。

確かに、成立に争いのない甲第一〇五号証の外、前掲各証拠及び争いのない事実によれば、原告のなした本件申請の内容は、境港海陸の船内荷役に引き続いて、本件作業を行おうとするものであり、本件作業と船内荷役とは、原木の船舶から海中への投下及び海上でのいかだ組みという作業の性質上、作業の安全性、荷役の迅速性、諸問題の処理等のためには、両作業者同士で緊密な調整を行って連続した作業体制の下でなされなければならないものであるところ、原告は、境港海陸や被告に対して、原告の水面貯木場に曳航するいかだについては、境港海陸のそれに比べて、長尺、短尺の木材を混ぜて組んだ、組み方の悪いものが多いと苦情を言ったり、境港海陸の競業する水面貯木場での場内作業の料金の据え置き方に比べて、独占部門たる本件作業の料金の改定が目に余るとして苦情を言ったりもし、この問題について、原告と境港海陸とは話し合いをしたものの、解決には至らなかったことは認められるが、原告の作業員や境港海陸の作業員は全て地元の者であって、普段からいがみあうようなこともなく、その他、具体的に特段の不都合があるとは認められない(被告からも、それ以上、具体的に問題が指摘されているわけではない。)。

そうすると、原告の事業計画のその余の点については特に問題がないのであるから、原告が「当該事業計画上適切な計画を有しない」とは認められない。

よって、被告の同号に関する主張も失当である。

3(一)  さらに、被告は、原告が慢性的赤字会社であり、「当該事業の経理的基礎が確実性を有」しないから、本件申請に対して免許をすると法六条一項五号に適合しないと主張するので、この点について判断する。

(二)  成立に争いのない甲第九三、第一〇四号証の一ないし四、乙第四、第三二号証の外、前掲各証拠及び争いのない事実によれば、以上の事実を認めることができる。

(1) 原告は、前記二のとおり、地元の材木業者が共同出資して設立した株式会社で、本件申請前の昭和五八年当時、資本金は三〇〇〇万円であったが、一三七六万七一七七円の累積赤字を計上し、更に減価償却不足額の累積額四五九九万三八三四円を加えると、実質的に債務超過となっていた(争いがない。)。

営業成績に関しても、営業損益においては収支ほぼ拮抗していものの、収益が伸び悩んでいるのは境港海陸との兼ね合いで場内作業料金等が据え置かれていたからである。営業外損失の内訳として目立つのは支払利息の一三〇〇万円余であるが、それは土地を掘削して水面貯木場を作ったときの負担によるところが大きい。

(2) 原告のなした本件申請の内容は、倉庫業を営む傍ら、余剰時間及び人員を活用して港湾運送事業を営もうとするもので、港湾運送事業の設備に費用がかかるものの、人件費を新たに必要とするものでなく、また、集荷は全て原告の株主である木材業者の輸入原木であって、そのまま原告の水面貯木場に搬入するものであり、安定した量の需要が見込まれる。

(3) 本件申請後の原告の水面倉庫業の営業成績をみると、平成二年までは営業収支はほぼ拮抗していたものの、昭和六一年を除いては毎期営業外損失を一〇〇〇万円程度出しており、期末損失を計上し続け、さらに平成三年には四〇〇〇万円の営業損失を出す等したため、期末損失は一億円余に上っている(ただし、毎期末に別途積立金二七〇万円を計上しているので、それを含んでの数値である。)。それでも、原告が金融機関から融資を受け続け、経営を継続できるのには、原告所有の土地が含み資産として実質一〇億円を下らないからである。

(三) 前記認定の事実に照らすと、原告の事業計画は余剰時間や人員を活用するということで合理的なものであり、収益の改善を十分に期待できるものと考えられ、加えて、前記(二)(1)のとおり、原告が本件作業をするようになると、境港海陸との兼ね合いで場内作業等の料金だけが据え置かれるという問題も解消されるとみられるから、副次的に倉庫業の収益も改善するであろうと推測される。さらに、原告の含み資産も、十分に評価し得るものである。

以上のとおりであるから、原告の本件申請にかかる事業の経理的基礎が確実性に欠けるとはいえない。

よって、被告の同号に関する主張も失当である。

四  そうすると、原告の本件申請について、被告の主張する事由はいずれも失当であるから、本件処分は違法である。

よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官福田修久 裁判長裁判官浅田登美子及び裁判官古賀輝郎はいずれも転補につき署名押印することができない。裁判官福田修久)

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